第33話 運命
♪死~んだら地獄で夢をみる~ Oh!サピエンス サピエンス サピエェェンス♪
僕らのバンド、サピエンスはドナがベースで加わり、杉山がドラムでカムバックし、ナオヤがエフェクターをあまり使わなくなった。
簡単に言ってしまえばベースがカズノリからドナに変わった、ただそれだけの変化なのだが、僕はまるで初めてバンドを組んだかのような、そんな新鮮な気分でいた。
その日、生まれ変わったバンドはスタジオREDで、僕が高校1年生のとき初めてバンドで使える曲として作った『ザ・サピエンス』という曲を練習していた。
♪死~んだら地獄で夢をみる~ Oh!サピエンス サピエンス サピエェェンス ブルースの夜に咲く~ ブルースの夜に咲くぅぅ♪
ドナのベースはカズノリの作ったベースラインをまったく同じに弾いているのに、カズノリが弾くのとでは違う音に聞こえる。ドナの使っているベースと、カズノリが使っていたベースは、細かいデザインやモデルは少し違うものの、二人とも同じフェンダーのジャズベースだ。おそらく、カズノリの使っていたベースをそのままドナが使い、同じラインを弾いたとしても、その音はやっぱり違って聞こえるだろう。僕はドナの弾くベースにすっかりホレていた。
『ザ・サピエンス』この曲のサビの♪サピエンス サピエンス サピエェェンス♪という部分で、いつもならナオヤがハモるのだが、この曲を3回程練習したとこで、そこをドナにハモらせてみた。それはナオヤの提案だ。
僕の歌声はトゲトゲしていて、なおかつ、あまり透らないという最悪なものなのだが、ナオヤのハモりも僕の歌声のそれと似ていて、そんな二人の声が交ざると、何とも耳障りなものに思えていた。
ならば、そこにドナの丸くて透る声でハモりを入れてみては?という冒険的な試みは見事な程に大成功だった。
♪死~んだら地獄で夢をみる~ Oh!サピエンス サピエンス サピエェェンス ブルースの夜に咲く~ ブルースの夜に咲くぅぅ ミカンは腐る~ オレらはロックンロールを殺さないぃぃ Oh!サピエンス サピエンス サピエェェンス♪
3回目のドナハモりバージョンの出来にナオヤは興奮気味に「こりゃいい!こりゃイケてるぞ!」と言っていた。
それを聞いてドナが「イケテル?どこに行けてると言っている?」と小さな声で僕に言ってきたので、「ドナは日本語をちょっとわからないくらいのほうがカワイイよ」と少しからかい気味に言った。「えぇ~、まっすぅ、何です?それ」とドナが僕の肩を突いた。「何でもないよ、このプリティーウーマンさん、よっ韓国のジュリア・ロバーツ」!」と、僕はドナの肩を突いた。「え、あたし、ジュリア・ロバーツ?じゃ、まっすぅはリチャード・ギアかしら?」「うふふ、俺はプリティーウーマンを歌うジェームズ・ニュートン・ハワードだぜ。さあ、杉山、カウントくれ!歌うぞ、プリティーウーマンを!」
と僕が後ろを振り向いたら、そこにはシラけた顔で僕らを見ていたナオヤと杉山がいた。
「あのなぁ、お前たち、わけのかわんないイチャイチャはよそでやってくれよ、ここはバンドの練習をするとこですぅ!」と、バンドリーダーのナオヤが言った。
「何でもいいけど、ドナさん、まっすぅは全然リチャード・ギアじゃねえぞ!」とリチャード・ギアファンの杉山が言った。
「イチャイチャってどういう意味?」とドナが真面目な顔でナオヤにその日本語の意味を聞いたので、ナオヤは言った「・・・さぁ、さぁ、次の曲やろ!ライブまであと1ヵ月だ!」
ドナがメンバーに加入したことで、僕は浮かれていたが、ナオヤの適切な仕切りで、ゆっくりだが確実に、これまでになく楽しく幸せにバンドは成長していった。
こうして僕の高校生活2回目の夏休みは終わった。
まだまだ暑さの残る9月の終わりごろ、生まれ変わったバンドでの初ライブを、地元、ユーコトロピアで決行した。
本番前にドナは少し笑い僕に言った「まさか、私が日本でライブするなんて、思わなかったよ」
「きっと、そういう運命だったんだよ」と、僕はドナに言った。
初めてステージに上がったドナは、まさにそれをするのが運命だったかのように、堂々と、そしてずっとニコニコしながら楽しそうにベースを弾いていた。
ダサい男3人の中でドナだけが一際その存在をキラキラと輝かせた。
ライブが終わり、ドナはいつもより興奮気味のテンションでにナオヤにこう言ってた。「みんな、チョ~イケテタネ!」
次号、「第34話 沖縄 占領下の夜」に続く・・・
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