第30話 新たな機関車
横浜でのライブを最後に僕らのバンド、サピエンスは分解してしまった。夏休みのはじめ頃、ナオヤとカズノリと杉山で決めたことだった。僕だけが誰からも何も聞かされていなかった。僕もサピエンスのメンバーだ、急に「はい、今日でメンバー解散」と言われて納得できるほどの他人事ではなかった。
ナオヤには考えがあった。前にユーコトロピアという地元のライブハウスの支配人、ジェリーから「改革が必要だ」と言われ、それからナオヤはずっとメンバーの入れ替えを計画していたのだ。ナオヤは僕の性格をよく知っている。新しいバンドの形がちゃんとできた段階ではないと僕が「バンドなんてやめてやる!キー!」と言いだすのではないかと心配していたのだ。実際、横浜ライブの打ち上げで僕はずっと一人ですねていた。
ベースのカズノリは同じ足立区の淵江高校軽音学部キャンデイ・ブロックスという人気バンドに加入した。サピエンスとキャンデイ・ブロークスはスタジオREDや地元のライブハウスでも何度か顔を合わせた事があり、お互いをよく知っている。キャンデイ・ブロークスのボーカルでもありバンドリーダーの小川という奴はカズノリのベースを気に入っていて、メンバー入れ替えを考えていたナオヤはその話をカズノリに持ちかけた。こうしてサピエンスからベーシストが一人移動した。
そしてドラムの杉山はフォーティーファイブというハードコア系の大学生バンドに加入した。その経緯はカズノリと同じで、さらに実力、人気ともにサピエンスとは比べものにならないくらいほどレベルの高いバンドから誘いがあったのだから、サピエンスの中で最もプロ思考の杉山にとってもいい話だったのだろう。
そしてナオヤはボーカルの僕だけを残して新しいメンバーを探した。ドラムには青地高校の3個上の先輩でS☆GOという足立区でも伝説となっていた人気バンドの元ドラマーで、今はバンドを辞めてフラフラしていたオサダという人を口説き落としていて、オサダはすでに新生サピエンスへの加入が決まっていた。僕は中学生の時に地元のライブハウスを出入りしていて、そのときS☆GOのライブも何度か観ていたのでオサダのことは知っていた。
「ベースはどうすんの?」僕はナオヤに聞いた。「ベースはまだ決まっていない。候補はあるけど交渉中」「誰よ?」「俺の地元の先輩とか、あと、西高にもいいベースがいるんだ。」「じゃぁ、ベースが決まるまで練習もライブもなし?」「まぁ、正式メンバーは慎重に決めなきゃいけないけど、サポートだったらやってくれる人はいるよ」「あぁ、サポートねぇ・・・ねぇナオヤ、俺はただみんなで楽しくライブができればいいんだ。それにサポートも正式も関係ないと思うんだけど」「じゃぁ、まっすぅはメンバーは誰でもいいっていうの?」「こだわりはないよ。楽しくできれば」「じゃぁ、サポートは素人の女ベーシストだけど、いいよな?」「えぇ~、なんでそうなるの・・・、別に掛け持ちでやってくれる人くらいいくらでもいるだろ~。女はいいけど、素人じゃサポートにならないじゃないか、それで今までより楽しいライブができると思うのか、ナオヤは」「いや、むしろあの子が入ってくれれば今までにない雰囲気ができると思うよ」「それって俺、知ってる人?」「おう、むしろまっすぅの方がよく知ってるよ」「・・・?え?誰?」「ドナさん」「・・・は?」
次号、「第31話 夏の魔法」に続く・・・
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