第27話 不思議な予感
そして、調子に乗った僕はもう一度キスをしてやろうとしたところ、思いっきり嫌な顔でにらまれた。最近覚えた日本語だろうか、片言で「チョウシニ、ノルナ」と言われ、僕の顔はみるみる真っ赤になってしまい、しょんぼりとした。
時間になり、2人で部屋を出ると、僕はカウンターにいたマリちゃんの顔を見ることができなかった。その後、いつものように僕はドナと『幸せ街道 100万号線』を歩きながら、どうしても気になることを聞いた。「ねぇ、ドナ、今日言ってたさ、秘密っていうのを教えてくれよ」ナオヤが今日、カラオケスタジオまでドナに会いに来た事だ。「え?あぁ、でもね、まっすぅにはまだ言わないで、って・・・秘密は守らなきゃ。でしょ?」「・・・キスした仲じゃないか~、秘密なんて必要ないよ」ドナは思い出したのか、ハハハと笑った。僕にとってドナとのキスは笑い事じゃないのだけど、ドナは何故かおもしろいしい。「ハハハ、それは関係ない」ドナはそう言うが、ナオヤとの密会と、僕とのキスは関係ないなんて思えなかった。この感じは何だ。この感じは嫉妬っていうやつだ。でも本当は嫉妬などする必要はない筈だ。僕はドナとついにキスまでしてしまったのだから、他の男に嫉妬するなんておかしな話なのだろう。「わかったよ、じゃぁ、俺は直接にナオヤから聞き出してやるんだ、いいね?」何だか自分が嫌な女みたいな性格になっている気がした。「いいよ、それならばいい。ノープログレム」ドナはそう言った。「じゃぁ、俺とドナの間にも秘密を決めよう」「え?何?」「キスしたって事。これ秘密ね」「アハハハ、OK。アハハ」
ドナと別れ、早速ナオヤに電話してやろうと思っていたが、結局その日、ナオヤに電話することはなかった。正直なところ、僕の心の中はそんなことより、ドナとのキスのことでいっぱいだった。ニヤニヤしていたし、足元はフラフラしていて、自転車が右へ左へとくねくねしていた。そうして交番の前をゆっくりと通ると、当然、お巡りさんがダッシュで僕を捕まえて「おい、ヘンなもんやってるんじゃないか?」と職務質問してきた。「お巡りさん、俺にだってニヤニヤしちゃうときっていうのがあるんだよ。素敵な余韻に浸ってるんだから邪魔しないでくれ」そういって立ち去ろうとしたが、「ちょっとちょっと」と言ってお巡りは僕を止めた。「ごめんね、でも持ち物だけ見せてもらっていいか?」ウッセーなこいつ、と小さく呟いて、大人しくポケットに入ってるものを見せた。「ほら、財布でしょ、ギターのピックでしょ、携帯でしょ、飴ちゃんでしょ、タバコでしょ、そしてライター・・・・ん?あ、タバコはダメ?」「うん、高校生でしょ、君。タバコはダメだね、ハイ、目の前で処分して。」いつもはタバコなんて持ってないのに、たまたまこの日、タバコを買っていた。でも別にもう吸いたくなかったので、言われたとおりお巡りの目の前で一本一本折ってみせた。タバコを折るとき僕は花占いのように「好き~。嫌~い。好き~。嫌~い」とふざけてみせた。20本入りのタバコを一本だけ吸ったので、残り19本のタバコは「好き」で終わった。「ほら、お巡りさん見て!やっぱり彼女、俺のこと好きなんだよ!」僕がそう言うと、お巡りは呆れたという顔で、「青春だな、君。まぁ、もう夜遅いからまっすぐ家に帰りなさい。タバコはもうダメだぞ。」そう言って去って行った。
もうすぐ、僕らにとって、この夏休み最大のイベントでもある横浜でのライブを間近にしていたのだが、僕の気持ちはドナのことと、ある不思議な予感でいっぱいになっていた。
ドナとの関係も、バンドも、全てのことが変わりそうな気がした。何かが最高の方向へ向かい始めているのを、不思議だが、僕はこの夜に実感していた。今以上にワクワクしてドキドキする未来が、僕の前にいて手を振っている、そんな気がしたのだ。なんでだろう。生まれ変わるような高揚感に満ちていた。とても不思議な予感だった。
その予感が現実のものになるのは、横浜のライブを終えてからのことだ。
次号、「第28話 横浜の昼下がり」に続く・・・
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