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2006年8月31日 (木)

第5話 華麗なる蝶

あの日の初練習から1週間がたとうとしていた。初練習はコピー曲をやり、バンドとしての感触を確かめる為のものだったが、僕にとっては、あの短い時間が、これからの人生の全てだったように思える。

初練習から1週間後の日、この日はナオヤと僕が、それぞれ作ってきた楽曲を披露する事になっていた。ナオヤは中学の頃からやっているバンドで、その全ての曲を作っている。僕はというと、今までバンドをやったことがなかったが、一人で曲を作ったりしていて、小学、中学と詩を書いていて、毎年、区から表彰されるほどの詩人だったので、作詞にも自信があった。初練習の日、「俺も曲を作ってくる」と宣言していた。が、いざ、バンドでやる曲を作るとなると大変だった。煮詰まれば煮詰まるほど、メロディーが浮かんでこなくなり、結局曲ができたのは、楽曲を披露する当日の朝だった。できなければできなかったと素直に言えばよかったのだが、それが悔しくて、徹夜してしまったのだ。

ナオヤの作ってきた曲は「ディスティネーション」というタイトルで、シンプルなブルーハーツを思わせるコード進行な曲だった。ギターで曲の流れをシンプルに弾きながら、「ウガウガ」とでたらめな言葉を発しながらメロディーを歌うという披露の仕方だった。曲の流れを掴むと、杉山がドラムを自然とたたき出し、カズノリも、「わかった」という感じでベースを弾きだす。シンプルにコードだけを弾いていたナオヤも演奏用のギターを弾き出す。そして最後に、「ウガウガ」と歌っていたメロディーを、ナオヤがメモ用紙に書いてきた、手書きの歌詞を見ながら、ちゃんとした歌詞で歌いだす。

何度も、何度も辞めることなく、皆がその曲を演奏する、すると気づいた時には、自然とそれが、一つのロックンロールに化けていった。毛虫がサナギを作り、急速に立派で、華麗な蝶へと変身するような、一連のドラマのように曲は出来上がっていたのだ。ナオヤの「ウガウガ」とコードだけのギターから、爆発しそうなロックンロールへと化ける瞬間を、初めてこの時味わった。

僕が一夜漬けで作った曲は「ウエスタン狼」というタイトルだった。ナオヤを真似て、部室にあった安っぽいギターで、シンプルにコードだけ弾き、「ウガウガ」とメロディーを乗せて歌った。そこに、ドラム、ベース、ギターという順番で演奏が加わった。演奏が加わると、僕は部室のギターを置き、歌詞を歌った。毛虫がサナギを作り、華麗な蝶へと変身する瞬間、出てきたのは蝶ではなく、蛾に見えた。

バンドでやってみて僕の作った曲には何かが足りないように感じた。きっと、ナオヤもカズノリもそう感じたのではないだろうか。ドラムの杉山だけが「二人ともかっこいいな!俺、ヘビメタバンドやめて、サピエンス1本でやるよ!」と興奮気味に言っていたが、僕は自分の作った曲に納得していなかった。

家に帰って、僕は一人「ナオヤの曲にあって、僕の曲にない、何かとは何だったんだろうか」とずっと考えていた。意識して、ロックンロールっぽい曲を作ったつもりだった・・、そう思った瞬間に、あの曲には「何かが足りない」ではなくて、「何かが余計」だったのだと気づいた。それは「ロックンロールっぽい」の「ぽい」だった。「男っぽい人」は男でなく女だ。「ロックンロールっぽい曲」はロックンロールではない。「ウエスタン狼」という曲は、必死になってロックンロールっぽさを捜していた時にできた曲だった。「自分は小学生の頃からロックンロールにとりつかれ、身体中にロックンロールが染み付いているはずだ、だから何も探さず、何も考えずにただ頭に流れるメロディーを待てばいいのだ」そう気づいたときに、頭の中に稲妻が走るように、メロディーと歌詞が同時に浮かんだ。

「この前の俺が作った曲は忘れて。ナオヤの曲はよかった。あれはやっていこう」 3度目のバンド練習の時に、僕はみんなにそう言った。この日も、僕とナオヤが作った曲を披露する日だったが、僕はこの前作った「ウエスタン狼」を無しにする変わりで2曲作ってきていた。一つはバンド名でもある「ザ・サピエンス」というタイトルで、もうひとつは「ロックンロールスター」というタイトルだった。ナオヤの作ってきた曲は「ロックスター」というタイトルだった。僕もナオヤも同じようなタイトルの曲を作ってきたことに不思議で神秘的なシンクロニシティーを感じた。僕が意識を捨て、無心の中作った「ザ・サピエンス」と「ロックンロールスター」には、「ウエスタン狼」の時のような違和感はなく、蛾ではなく華麗なる蝶になってくれた。ナオヤとカズノリもこの曲の出来に驚き満足してくれたが、何よりも僕自身がその出来に驚いた。どんなに上手く絵が描けたときよりも、どんなに速いタイムで走れたときにも味わったことのない快感だった。ナオヤの作った「ロックスター」も「Oh!Destinatio」に負けないくらいにカッコイイ曲だった。

3度目の練習にして、最高のオリジナルが4曲もできたのだ。しかし、これはまだ、単なる初期衝動で、ライブを重ね、成長するにつれてこれらの初期衝動を軽く飛び越えるほどの最高の曲もできていったのだ。こんなカッコイイバンドは足立区中探しても他にはなかった。

次号、「第6話 ダンデライアン」に続く・・・

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第4話 動き出す機関車

金田邸でのドラッグパーティーは僕にとって重要な一日だった。同じクラスながら金田やタッチャン、小田さん、ナオヤらとまともに会話したのはこの日が初めてだった。みんなで、中学生の時の武勇伝を自慢し合った。喧嘩や暴力の事、酒やドラッグの事、女の事やセックスの事。。金田は、俺は日本の若者を代表して世界にいきたいと言っていたし、タッチャンは暴走族や喧嘩の仕方を話していたし、小田さんは、うちら、みんな増山くんが、いつも先生をからかうのを楽しみにしている、と言ってくれたし、タイラは一緒に映画を撮ろうと誘ってくれたし、ナオヤとはロックンロールやバンドの事の話しをした。

この日以来、僕は金田グループに入った。金田は中学の時から、人をまとめるのが得意で、そのカリスマ性でわずか一ヵ月で、青地高校1年のリーダーになった。タッチャンらヤンキー系、ナオヤらバンド系、小田さんらレディース系、タイラらお笑い系、これら全てが金田グループだった。金田は、喫煙所は非常階段と決め、ドラッグは未経験の奴らにやらせてはいけないこと、いじめをしないこと、等の約束事を決めた。それらの約束事を決める時、みんなの前で声に出して伝えたり、メールなどで連絡したりなどはせず、自然とさり気なくみんなに浸透させていったのだ。「カルト教団の教祖になれる」僕は金田のカリスマ性に対し、そう思っていた。

金田邸でのパーティーがきっかけで、5人の友人ができ、その脈で学年中の楽しい奴らと友達になることができた。そして何よりも決定的だったのは、ナオヤが、自分とカズノリのバンドに僕を入れてくれた事だった。カズノリと仲良くなるのには、時間はかからなかった。ロックンロールを愛するカズノリは不良ではあったが、人間として、何か大きなものを感じた。彼の話しは面白く、気さくな人柄だった。クラスは違ったが、ナオヤとは体験入部の時に意気投合し、一緒にやるようになったしい。

ドラマーは5組の杉山という奴がやってくれることになった。杉山とは、体験入部の時に、他の新入生ドラマーの中でも、ずば抜けた腕で、R&Bリズムから、ビートロックまで、ジャンルを問わない、天才的なドラマーだった。ドラムを叩いている時の姿からは想像できないほど、普段の彼は普通だった。

杉山はすでに、同じクラスの鈴木と木村というやつらとスリーピースのヘビメタバンドを組む約束をしていたが、僕の希望で、ナオヤは彼を口説いてくれた。結局、しばらくはヘビメタバンドと僕らのバンドと掛け持ちでやることになった。しかし、彼がヘビメタバンドを辞め、僕らのバンド一本に絞ってくれるようになるまで、時間はかからなかった。ナオヤは中学時代から、中学生ながら、きちんとしたステージでライブをやるほど本格的なバンドをやっていたし、カズノリも、ナオヤほど本格的ではなかったがバンドをやっていた人間だ。それに、僕らはヘビメタバンドとは違い、オリジナル楽曲のバンドだった。杉山が僕らのバンドの方にやりがいを感じるのは当然だったのだ。

こうして、僕は考えうる最高のメンバーとバンドを結成することになったのだ。このバンドには、しばらくバンド名はなかったが、顧問の久保からバンド名を決めろと言われており、ナオヤが「ザ・サピエンス」とテキトーなバンド名を決めてしまった。でも、僕らの中に誰一人、バンド名を真剣に考えようとする人間はいなかった。みんな、形なんてどうでもいい事なんだ、と思っていたのだ。

軽音楽部の部室使用は各バンドが交代制で使用することになっていた。完全オリジナルバンドにしようと決めていたが、初めて部室でみんなで合わせる日は、カバーでやった。4人みんなが知っていて、とっさに合わす事のできる楽曲と言うことで、セックスピストルズの「アナーキーインザUK」や、ラモーンズの「ドゥーユーリメンバーロックンロールラジオ」やベイシティーローラーズの「サタデーナイト」、ブルーハーツの「情熱の薔薇」など簡単なものをやった。

初めてバンドをやるのはボーカルの僕だけだった。小学5年生の頃、RCサクセションのカバーズという衝撃的なアルバムと出会ってから、バンド結成の日をむかえるまで、長い時間がかかった、とシミジミ思っていた。小学や中学の時にはナオヤやカズノリみたいな人間はいなく、いつか最高のメンバーとバンドを組んでロックンロールをやりたい、という長年の溜まった我慢が一気に破裂するような気分だった。だから初めてのこの日、バンドとして、生のギター音とベース音とドラム音に包まれたときは、今までやった数々のドラッグでもかなわないくらいに、僕を高揚させた。前からカラオケに行くことはよくあったが、僕はどうも、そのカラオケというものが嫌いだった。カラオケの音は「偽物」だったからだ。本物の音は生のバンドにある、と思っていた。アンプを通したナオヤのギターとカズノリのベースと、杉山の叩くドラム音に包まれたときに聞こえた音は、確かに、ずっと僕が求めていた本物の音だった。そして、その音は何かとても狂暴な生き物のようにも感じた。それは他人のライブで音楽を聴いている時には絶対に見えない生き物だ。本物のバンドの音に包まれながらマイクスタンドにむかった時、この狂暴な生き物が僕にとりつくのを感じた。

「アァァイアムァーアンチキリィスト」セックスピストルズのアナーキーインザUKを歌いはじめた時、僕は自分が自分じゃなくなるの奇妙な感覚をおぼえた。僕はセックスピストルズのジョニーロットンになったわけでもないし、15年以上生きてきた自分でもない。生物として特定できない、何者でもない状態になったのだ。

そして、ロックンロールのボーカルは、歌っているんじゃなくて、この何者でもない状態にメロディーを解き放たれているだけなんだ、という事に気付いた。

アナーキーインザUKをやり終えた時、みんな一瞬、言葉をなくし、誰かが「いいねぇ!」と言って、みんなで照れたように「いいねぇ」と言いながら、手を叩いたり、握手をしたりした。石炭をくべられた機関車が、煙をはきながらゆっくりと車輪を回し、巨大な車体を動かすような感じとよく似ていた。この日、まさに機関車の様に、この巨大なバンドはゆっくり動きだした。

次号、「第5話 華麗なる蝶」に続く・・・

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2006年8月29日 (火)

第3話 金田邸 ドラッグパーティー

金田の家は金持ちで3階建ての大きな家で、庭があり大きなガレージもあった。3階丸々が金田の部屋で、アメリカンなインテリアが揃い、イギリス映画に出てくるような古いピンボールマシーンがあって、壁には写真が大量に貼られていた。その写真の多さが金田の人脈の広大さを物語っていた。

3日前に僕がナオヤと約束したドラッグパーティーは、金田の家で行われた。あの話を聞いた金田が「じゃあ、クラスの親睦会にしよう」と提案して、場所を提供してくれたのだ。そこには同じクラスのタッチャンと、タイラと、小田さんと言う女子が来た。

「さすが、足立の悪ガキたち」僕の持ってきたマリファナや、ナオヤの持ってきたマジックマッシュルームをみんな、当たり前のようにやりだした。マリファナはパイプに詰めて、火をつけ、まわし吸いした。マジックマッシュルームはハサミで粉状に細かくし、マツモトキヨシで買ったオブラートで包み、ポカリスウェットと一緒に飲み込んだ。

マリファナとマジックマッシュルームでベロンベロンになりながら、金田とタッチャンがピンボールで遊んでいて、タイラと小田はベッドに座りながらその様子を眺めながら、たまにキスをしていた。僕とナオヤは高級そうなソファでぐったりしていた。僕は久しぶりのマリファナで目を回していた。ナオヤがロレツの回らない口調で僕に話し掛けてきた。「ねぇ、マッシュ君、あれ?増山君だっけ?俺は誰だっけ?あ、君はマッシュくんだね。あれ、俺今まで増山くんってよんでたっけ?まぁいいや。あのさ、軽音楽のバンドなんだけどさ、こんどカズノリ紹介するからさ、ボーカルやんなよ。ボーカル。こういう場だから言うけどさ、マッシュゥ増山はさ、かなりクレイジーボーイだろ。マッシュくんより、マッスゥくんって感じだね。マッスルくんじゃないもんね。まっすぅだね」マリファナでぶっ飛んでいる彼が何言ってんだかよくわかんなかったが、僕をメンバーに誘ってくれている事と、僕に「まっすぅ」と言うあだ名を付けてくれた事は理解できた。「ボーカル?やるさ、歌う人やるさ。まっすぅやります。とびます。」

そんな感じで良くわからないまま、僕はナオヤと、そしてカズノリとバンドを組み事になった。
ナオヤがカズノリにボーカルが決まったことを報告しようと携帯を手にした瞬間、彼の携帯がなった。着信表示を見て「こいつタイミングよすぎ」とナオヤが笑った。ちょうどカズノリからかかってきたのだ。電話に出たナオヤはカズノリに「ギンギンですかー!!」と言った、受話器の向うでカズノリという男が、ナオヤの訳のわからない呼び掛けに対し、とっさに「ギンギンでーす!!」と返した声が聞こえた。マリファナのせいで、僕はそのやり取りがツボに入り、腹が破けるかと思うくらい爆笑をした。

次回、「第4話 動き出す機関車」に続く・・・

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第2話 軽音楽部とナオヤ(1999年4月の校舎)

新入生は入学してすぐに部活を決めなければならなかった。入学式が終わり、一週間くらいたったあたりで、この高校では2日間にわたる「部活レクレーション」という行事が行われた。各部活がさまざまなアプローチで、新入生の勧誘を行う、一種の部活祭りのようなイベントだ。

新入生はこの2日間で興味のある部に体験入部をし、自分の部活を決める。この2日間、僕は東条を連れ込み、軽音楽部に体験入部した。

東条は、中学の頃からの友達だ。僕は小学生の頃からロックンロールの魅力にとりつかれていたが、当時、ぼくのまわりに、ロックンロールの魅力に気付いている友達はいなかった。だからバンドをやりたくてもできず、その反発心からたくさんの悪さをした。そんな中、この東条はハイロウズが好きで、よく二人でライブに行った。東条は単にハイロウズ好きなだけで、決してロックンロール野郎ではなかった。「ロックンロールに入り口はたくさんあり、出口はなし」これが僕のロックンロール感だが、東条は入り口には立っているが、
まだ中には入ってはいなかった。東条は、僕らと、悪さをするグループの仲間ではなかっが、ハイロウズのライブに一緒にいけるので、僕の友達の中では唯一の、真面目な性格の友達だった。

軽音楽部の体験入部では、希望する各パート毎にわかれてレクレーションをしていた。ギター希望者は、実際にギターを弾いてみせたり、初心者は先輩にギターの弾き方を教えてもらったりしていた。ベース希望者、ドラム希望者、キーボード希望者なども同様に、自分の演奏力を披露する新入生や、先輩に教わっている新入生の姿で賑わっていた。東条はドラムのたたき方を教わっていた。ボーカル希望者は特にやることがなかった。歌唱力を披露する新入生もいなけりゃ、歌い方を教えようとする先輩もいなかった。希望者はただ談笑したりしていて、僕もその輪の中で、同じクラスのタイラという面白い奴と話をしていた。

ある、ドラム希望の新入生が、ブルースからジャズからロックから、様々なジャンルの音楽を変幻自在に披露していた。その自在なテクニックをもつ新入生に、先輩も新入生達も視線を奪われていた。さっきまで先輩にスティクの握り方を教わっていた東条の姿がなんだか、とても間抜けなものに思えた。

「あいつは何者だ?」そう言わんばかりの視線が、その新入生ドラマーに向けられたが、そこにいた誰もが驚いた訳ではないのだ。東京下町のあちこちから、クオリティーの高いバンド活動を求めてこの青地高校の軽音楽にやってくるのだ。当然、経験者も多い。だから、あの新入生ドラマーのように、すでに完璧なものをもった人がいても、それは驚きではないのだ。

その新入生ドラマーは、いたって普通の風格だった。「あいつも、まだロックンロールの入り口の前で立っているだけの人間だな」直観的に僕は、その新入生ドラマーからそう感じていた。でも、彼がロックンロールの入り口から中に入ったらすごいバンドができそうだ、という希望もわいていた。

「誘っといて悪いけど、東条よ、俺はお前とは組まないから、自分でメンバーさがしてくれよ」体験入部の終わりの帰り道、僕は東条に冷たくそう言った。僕は仲良しバンドをやりたくて青地高校に来たんじゃない、僕はあのドラマーをメンバーにしたかったのだ。

初めてナオヤと話したのは、体験入部を終え、正式に入部届けを出した後だった。

「増山くん、軽音入ったでしょ?ボーカルやるの?」

遅刻して来た僕が教室に入った時は、すでに一時間目の英語の授業が始まっていた。授業が始まっている事を察した僕は、後ろのドアから眠そうな顔をして教室に入った。ナオヤは、廊下側の一番後ろの席で、やる気のない態度で座っていた。ナオヤの後ろを通るとき、彼は突然、僕に声をかけた「増山くん、軽音入ったでしょ?ボーカルやるの?」僕はナオヤに話し掛けられた時、なんだかとてもうれしい気持ちになり、スッと眠気が覚めた。

入学式の時から、同じクラスになった彼を初めて見たときから「あいつとは友達になるだろうな」と直観的に思っていた。ナオヤに自分と同じ雰囲気を感じていたのだ。中学の時から何か悪さをしていた、そんな雰囲気が親近感を生んでいた。だが、そんな彼と初めて会話をしたのは、その時がはじめてだった。

「おぅ。バンドやりたいけど楽器できないもん、ボーカルやる。ナオヤくんはギターでしょ?体験入部で弾いてたもんね。かなりイカしてたぜ。」僕がそう返事をした時、英語の淵江という教師がどなった。「おいお前ら、授業中だぞ、話をするな。増山、遅刻してきたんだから早く席に着け」そんな淵江の言葉をシカトしながらナオヤが言った「そう、俺はギター、昔からやってきたしね。増山くんはメンバー決まった?なにやるの?ロック?」     「おい、いい加減にしろよ!?」淵江がそう言ってきたと同時にナオヤは表情一つ変えずに教室を出た。廊下に出たナオヤは声に出さず、首だけで「あっちいこう」と僕に言ってきたので、僕も教室も出て歩き出した。「お前ら、欠席な!欠席扱いだからな!」後ろでそう淵江が怒鳴っていた。

「タバコ吸いてぇ」と言ったナオヤと来たのは非常階段だった。非常階段にはタバコの吸殻が散乱していた。僕は、この時、はじめて非常階段に来た。「へぇ、みんなこんな所で煙草吸ってるんだ。」感心した僕に、ナオヤは「そうだよ。ある?いる?」と言って、ブレザーのポケットから取り出したラッキーストライクを僕に差出した。「俺、もうタバコやめたから、いい」といってナオヤのタバコを断った。「ナオヤくんはメンバー決まった?」「いや、まだベースしか決まってない。3組のカズノリってやつ?知ってる?あのフランケンシュタインみたいなの。」「カズノリ?知らない・・」青地高校に入学してから、僕にはまだあまり友達はいなかった。

ナオヤが中学の頃からパンクバンドをやってるという話に僕の目は輝いた。それは、彼がバンドをやっているという事に対しての憧れなどではなく、彼の口からでてくる「ラモーンズ」「ピストルズ」「ジャム」「クラッシュ」「ロンドン」「70年代」「3コード」「CBGB」「ジョーストラマー」「マルコムマクラーレン」「シド・ヴィシャス」
などといった単語に感激したのだ。 なぜなら僕は中学の時に、誰かとそんな話をしたかったのに、できなかった、その歯痒さが一気に報われた気分になれたからだ。

「こいつは絶対クレイジーだ」この日、僕は非常階段で、このナオヤという男についていこうと決めた。

そして半年ぶりくらいにタバコを吸った。ニコチンが恋しくなったわけではない、どうしても、ナオヤからラッキーストライクを受け取りたかったのだ。

「今度、みんな誘ってやろうぜ」そう言って僕はカバンの中から銀紙に包まれたマリファナを差し出した。その日、学校の帰りに、地元の友達の家でキメる用に、僕は、数日前に先輩から買ったこのマリファナを持ってきていた。中学3年の頃あたりから、先輩達の影響で僕らはマリファナにハマっていた。その頃は、誰かの家に行くと、必ず誰かしらマリファナを持ってきていて、深夜までマリファナパーティーをしていたのだ。高校に入ってからは、まだパーティーはしていなかった。久しぶりに地元の友達とパーティーをしようと思っていたが、彼にだったら分けてあげてもよかった。「ガンジャかぁ、マッシュと一緒にキメると最高だぜ、今度マッシュ買っとくよ」ガンジャとはマリファナの事で、マッシュとは幻覚キノコのマジックマッシュルームの事だ。僕はマジックマッシュルームが苦手だった。あの強烈な匂いも嫌だったし、食ってからキマるまで必ず一度は嘔吐するからだ。だから、僕は単にマリファナだけを楽しみたかったが、ここで断る気持ちになれずに「じゃあ、マッシュの手配頼んだよ」と返事をしてしまった。

この時約束したドラッグパーティーは、3日後、金田の家で行われた。

次回、「金田邸 ドラッグパーティー」に続く・・・

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2006年8月28日 (月)

第1話 非常階段 ~この時はまだ・・(1999年7月の空)

青地高校は都心から少し離れた東京の北東部、足立区の真ん中にある。今は授業中だったが僕らは教室にはいなかった。L字に曲がった校舎の一番奥にその非常階段はある。そこは僕らの喫煙所になっていた。

7月の空にタバコの煙はとても青くみえた。

親友のナオヤがラッキーストライクを吸っている。ナオヤとはバンド仲間でもある。中学の頃からラモーンズを思わせるパンクバンドをやっていて、ついこの間まで、僕らのバンドと掛け持ちをしていた。外人顔したギターリストだ。この時はまだこのナオヤと共に僕らのバンドが東京中を駆け回るほどになるとは思ってもみなかった。

非常階段に座り、セブンスターをもみ消しているのは、足立区で有名な暴走族に入っているタッチャンだ。タッチャンは、長髪で恐い顔だが整った顔つきをしていて、女子に人気があった。そして、この時はまだタッチャンが環七で不運な事故にあい、この世をさる事になるなんて思ってみなかった。

タッチャンの横に座っているのは金田だ。金田は僕らの学級のリーダー的な存在で、男女問わずヤンキーからガリ勉くん達までを一つにまとめることのできる、ある意味カリスマ的な奴で、後輩や先輩や他校の奴らにも沢山の仲間がいて、東京で2番目に人口が多い、この足立区でもかなり顔の知られた、とんでもない奴だ。この時はまだ、金田がアメリカのノースキャロナイナで、そのカリスマ性を発揮することになるなんて思っても見なかった。

非常階段の影から校庭を見下ろしながらマルボロに火を点けようとしてるのは、僕らの仲間のお笑い担当のタイラだ。タイラはお笑い担当ながら人一倍、ごっつい体格をもっている。この時はまだタイラが「ヒザマクラ」という青地高校で伝説になるギャグをあみだすなんて思ってもみなかった。

僕は、ナオヤとタイラと共に、校庭を眺めている。みんなからは「まっすぅ」と呼ばれている。名前は増山隼人。僕は教師をからかう天才だ。「コンドームばらまき事件」「教室、生徒後向き事件」「校長室チンコオブジェ事件」「チョーク取らせない事件」「ゴキブリ教卓事件」「背中にこっそり的張り事件」「どっきり双子事件」などなど教師に対してたくさんのいたずらをして、みんなを楽しませていた。入学の時からたくさんのアイディアでみんなを楽しませた。僕はナオヤとともにバンドをやっていた。楽器ができないので、ボーカルだ。

非常階段からは校庭が少し見える。3組の生徒達が体育の授業をしていた。なぜか3組にはカワイイ女子が多かった。

一番人気は亀チャンと呼ばれている、小柄でアイドルのようにかわいい子だ。純粋そうにみえて、実はヤリマンらしいという噂があり、僕も彼女とヤレるかも、なんて期待していた。亀チャンが高3で妊娠し、子供を生むことになるとはこの時はまだ思いもしなかった。

後にミニスカポリスになった、カヤもいた。カヤはこの時から本物のアイドルでタッチャンの彼女だ。カヤはミニスカポリスで成功をおさめるがテレビの生放送でアイドルらしからぬ発言をし、それがきっかけで所属事務所に干されることになるとは、この時はまだ思いもしなかった。

亀チャンの親友で、ミュージカル劇団に所属していてダンスがうまく、将来はナースをめざしている小柄でかわいらしい美恵ちゃんもいた。後に、高2の時行われる「ミス青地コンテスト」で亀チャンはダントツ1位に選ばれたが、美恵ちゃんも健闘し、3位に選ばれた。そんな美恵ちゃんが僕と7年も付き合う彼女になるなんて、この時はまだ思いもしなかった。

そんな3大アイドルのいる3組には、カズノリもいた。カズノリも、僕ら金田仲間の一人で、ロックンロールオタクで僕とナオヤのバンド仲間でベーシストだった。キレたら、金田でも、暴走族のタッチャンにも止められないほどの狂暴さを持っているが、普段は人情にあつい奴で、アニメ「怪物くん」に出てくるフランケンにそっくりなんだ。

この話は、タッチャンが環七で不運な事故にあい、この世をさる事になった話を書いたわけでもなく、金田がアメリカのノースキャロナイナで、カリスマ性を発揮する話を書いたわけでもなく、タイラが「ヒザマクラ」という青地高校で伝説になるギャグをあみだした話を書いたわけじゃなく、僕が様々ないたずらで、教師をからかう話を書いたわけじゃなく、ミス青地コンテストで1位になる亀チャンが、高3の時に妊娠し出産してしまう話を書いたわけでもなく、カヤがアイドル時代に、生放送でアイドルらしからぬ発言をし、所属事務所に干されてしまうことになる話を書いたわけでもなく、美恵ちゃんが、僕と7年も付き合うという話を書いたわけでもない。僕らのバンドと、後に出会う韓国人女性とのロックンロールと愛の物語だ。

次号、物語は高校入学間もない、4月の日にさかのぼる。
第2話 軽音楽部とナオヤ」に続く・・・・

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